時速10キロの先にあるもの


青信号を確認し左折したとき、

死角にいた自転車を見逃した

時速10キロの私は、

自転車ごと女性を跳ね飛ばした。



頭部3針、足小指骨折の

大怪我だった。


保険会社を通して、

お見舞いと謝罪に行きたい

意向を伝えたが、

訪問ではなく電話を希望された。


私が電話したときは、

まだ病院におられた。


足の小指の手術を明日に控え、

今日は帰宅すると聞いたとき、

同居する娘の仕事が遅いため、

一人、タクシーで、と言われた。


警察庁からの処分決定まで

運転できる私は、

迎えに行きたいと伝えたとき、

一人で帰りたいと言われた。


足の不自由は、

生活に影響を与えると思い、

私が娘さんの代わりになる

ことはないか尋ねたとき

すすり泣く声が聞こえた。 



同時刻、リマでカメラマンが

時速10キロのバイクに

一眼レフを盗まれていた。


ペルーでの写真は1枚もなく、

帰国すると連絡があった。


カメラを失って残ったのは何か

私は聞いてみた。


いろいろな国で写真を撮ったが

これまで一度も見返したことが

ありません。


今日のことがなければ、

おそらくそれは死ぬまで。


だったら撮っても撮らなくても

同じじゃないの、ということ。


そして山本さんとこうして

ゆっくり話せたこと。



私は、この世の最高の財産は、

無形資産だと思って生きている。


無形資産の最たるものは、

時間だと思って生きている。


60分で10キロも進む時間が

彼に与えたものは、


カメラの原価を上回る

保険金だった。


その電話を切ったあと、

私にきた知らせは、

新しいクライアントとの

契約だった。


その私はすぐにくる未来で、

免許停止をもらう。


新しいクライアントには、

移動手段を変えろ

というメッセージだと思った。


私の被害者とカメラマンが、 

事故からもらったものは、


行きたくない場所と、

会いたくない人がいる場所に

行かなくていい出来事だった。



深い一日が終わった。  



ヤマモトマユミのロジカルシンキング

目の前に横たわる様々な問題の原因をロジカルに解明するインテリジェンスな情報メディアサイト

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